第1話「福の道」

更新日 2017-08-09

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第1話「福の道」

エピソード(増一阿含経巻第31 5)

古代インドのコーサラ国。
ここに祇園精舎と呼ばれる寺院がありました。
そこでは大勢のお釈迦さんの弟子達が修行に励んでいます。

ある時、お釈迦さんの弟子の一人であるアヌルッダさんは、
自分がいつも着ている衣の綻びを縫おうとしていました。
しかし、眼を失明している彼は、
なかなか針に糸を通すことができません。
彼は心の中で念じました。


(誰かこの世の中で、幸せを求める者がいるならば、
 私のために糸を通してくれないだろうか……)


すると、ふと誰かが、
アヌルッダさんの様子を心配したのでしょうか。
彼の方に近づいてきました。


「アヌルッダ。私がそれを通してあげますよ」


アヌルッダさんは驚きました。
その声の主は、お釈迦さんだったのです。
アヌルッダさんはすぐさま言いました。


「私は今、心の中で思っていました。
 『誰かこの世の中で、幸せを求める者がいるならば、
  私のために糸を通してくれないだろうか』
 と。しかし、私は師に向かって
 そのようなことを思ったのではありません」


お釈迦さんは彼の手から、そっと糸と針を取ります。


「アヌルッダ。世間の人は皆、幸せを求めている。
 しかし、世の中の、幸せを求める人の中で、
 私ほど真剣に幸せを求めている者はいないでしょうね」


そう言って、お釈迦さんは針の穴に糸を通しました。
そして、最後に詩をもってこう述べました。


「世間の所有の力     (世の中の様々な力は)
 天・人中に遊在す    (天や人など、どこにでもある)
 福力最も勝れ為り    (その中で福の力こそ最も勝れている)
 福に由りて仏道を成ず」 (この福の力によって仏の道を成ずる)
針と糸

メッセージ

私が初めて、このお話を読んだ時、驚きました。

それは何故か?
「世間の人は皆、幸せを求めている」
これは誰にでも当てはまると思いますが、
お釈迦さんという人もまた、その例外ではなかったからです。
小さな頃から私には、「お釈迦様が説いた仏教」というと、
あるイメージがありました。
それは、「煩悩を滅する」「欲望を無くす」といったものです。
私にはこのことが、「如何にも人間ぽくないな」
感じて仕方ありませんでした。

欲望のない人間。そんな人間はどこを探してもいません。
確かに人は、欲のために失敗することもありますが、
欲があるからこそ、幸せを求め、努力します。

仏教というと、世間でいう幸せを求めるいうことから
全く背を向けて歩んでいく道と思っていました。

しかし、お釈迦さんはこう豪語しています。
「世の中の、幸せを求める人の中で、
私ほど真剣に幸せを求めている者はいないだろう」と。

私には貪欲とも読み取れる程に幸せ求めていたという
お釈迦さんの言葉に、むしろ親しみを感じ、人間味を感じました。
それと同時に、「私ほど真剣に幸せを求めているものはいない」
と豪語するそのお釈迦さんの道に興味を持ちました。



皆さんにとって幸せとはなんでしょうか?
有名になる。金持ちになる。結婚する。名誉を得る。権力を得る。

王族として生まれたお釈迦さんは、
このような形の幸せは全て得ていました。
しかし満足できませんでした。
そんなお釈迦さんが、真剣に、徹底的に突き詰めた道が、
後に「仏教」と呼ばれる道です。

確かに、仏教の道、またお釈迦さんのいう「幸せ」は、
私達が発想する幸せとは、また違ったものだ(※追記)と思います。
しかし、その道の出発点、根っこのところは、
私達となんら変わらないところにあることを、
このエピソードから感じました。

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追記

幸せとは何か? 
それは言葉にした途端に何故か軽々しくなってしまいます。
恐らくそれは「これが幸せだ」と決めつけて追い求めると
途端に違うものになってしまうからかもしれません。
ただその出発点は何も変わらない。

私にとってこのエピソードは「仏教なんてこんなもんだ」と
決めつけていた先入観を手放すきっかけになったものです。
そしてそれは結果として「幸せ」を考え直すきっかけにもなりました。
だから敢えて題名を「福」にしました。

私達が一般的に考える幸や不幸といった発想とも違う。
それでは、何か特別な、あるいは究極的なもの
(例えば悟りを得るなどといったようなもの)
を想像する人も多いですが、そうでもない。

私達の道と決して違わず、そして同じでない。
私達の歩み方と決して変わらない、また異なった歩み方。
この時点で結論は出さずに、
他のエピソードも吟味して、お読みいただければ幸いです。

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最後までお読み頂き、ありがとうございました。